葉山・月山・朝日連峰 - みちのく名峰めぐり 山形のやま旅

やま旅レポート
大朝日岳編

「朝日連峰」、山好きなら一度は登りたいと憧れる東北を代表する百名山。西村山エリアの南西に位置する連峰の中でひときわ端正な三角錐を呈している山が、主峰 大朝日岳です。標高1,871mの中級山岳でありながら、厳しい自然条件による浸食が、荒々しくも美しい険峻な非対称山稜を創り出しています。今回は、大朝日岳の登山を中心に、山麓の特産品と極上の温泉を堪能する3泊4日の旅をご紹介します。

1日目・お天気待ち
のんびり観光を楽しむ

AM11:00文化交流の大江町交流ステーション

シルバーウィークの連休を利用して紅葉の大朝日岳を目指したのですが、台風の影響で予定していた登山日に悪天が重なってしまい、ならば「天気待ちついでに、大朝日岳避難小屋泊りに必要な食料を地元の旬の食材で揃え、買い物と一緒に観光も温泉も楽しんじゃおう!」ということに。大朝日岳での1泊を最高のコンディションで狙う、贅沢なやま旅のスタートです。

さっそく左沢(あてらざわ)駅の大江町交流ステーションへ。大正11年開業した左沢駅舎よりも目立つ交流ステーション施設は、村山地域の代表的な木材である西山杉をふんだんに使用。
左沢楯山城(あてらざわたてやまじょう)をモチーフに建造され、施設内には毎年9月に行われる伝統おおえの秋祭りの山車が展示されています。「左沢駅の北側にそびえる楯山公園から、最上川の流れと美しい大江町の町並みを一望することができます。この景色と共に往年の営みを残す左沢町場の景観は、山形県唯一の重要文化的景観に選定されています」という情報を交流ステーションのスタッフから聞き、「なるほど」ということで、楯山公園へと向かいました。

3分

PM12:00美観の大江町を望む楯山公園

楯山公園からの景色を見ずして大江町は語れないと思いました。最上川の見事な曲線美に新旧の眼鏡橋が人の営みをつなぎ、日本の原風景を絵画にしたような風景が眼下に広がっていたのです。

「偶然散歩中だった」という大江町観光ボランティアガイドの会“舟唄の里案内人”会長 石川博資さんの話によると、ここ楯山公園は大江氏の一族である左沢元時が築いた山城跡地で、自然の地形を利用して侵略者を監視する役割を持っていたそうです。
「簡単には見られませんが、朝焼けに染まる最上川の景色は格別です。右に見える連山が朝日連峰で、一番尖っている山が大朝日岳ですね。真後ろの大きい山が葉山で、さらに左に月山が見えます。西村山エリアの三山と最上川を同時に見られる場所は、ここだけですよ」と教えてくれました。

楯山公園にはライブカメラも設置されています。以下のリンクからご覧いただけます。
[ 楯山公園ライブカメラ > ]

20分

PM1:00キャンプもできる大山自然公園

楯山公園からの静かな町並みと山並みの景色に感動したならば、今度は南側からの展望も味わってみましょう。県道9号で南西に約7㎞。大山に上る舗装道に進路を向けると、大山自然公園という芝生の美しい公園があります。コテージサイトとフリーテントスペースに分かれ、センター棟から上る展望台の景色はまさに絶景。魅力は展望だけに留まりません。

5月下旬、山の雪解けがようやく始まる頃、大山自然公園ではひと足早く、約6万株のヒメサユリが一斉に花開します。大朝日岳に自生するヒメサユリの開花は7月上旬ですので、1ヶ月以上早い開花ということになります。公園では花の見頃に合わせて、大山自然公園ユリまつりを開催しています。
しかし大山一帯に群生していた自生のヒメサユリはその昔、心ない人々の行いによって、一時は数十株まで激減してしまったそうです。そんな悲惨な大山の状態を見かねた地元住民と町は、「ヒメサユリが咲き誇る大山を再現しよう!」というプロジェクトを立ち上げ、みんなで協力して栽植に励んだことで、再び美しい姿の大山を取り戻すことができたということです。

[ 宿泊案内:大山自然公園コテージ > ]

15分

PM2:00道の駅あさひまちのアップルマルシェ

国道287号を南下すると、道の駅あさひまち りんごの森が左側に見えます。地元特産の果物や野菜、お惣菜などが揃い、登山前の食料準備に便利です。施設の外には、午後3時まで営業しているアップルマルシェが併設し、観光途中で小腹を満たすのにぴったりのスポットになっています。

是非味わってほしい人気メニューは、引力バーガー。なぜ「引力」なのかと言うと、朝日町特産のりんごを餌にした豚を「あっぷるニュー豚(トン)」と呼び、その大物理学者の名前にちなんだパテを使用しているからなんです。
旨味たっぷりの肉汁に、シャキシャキのキャベツと輪切りのりんごがベストマッチ!「もうひとつ食べたい!」と思うほど美味しいハンバーガーです。他にも、りんご1個を丸ごと絞るフレッシュジュースやオリジナルソフトクリームもたまらない旨さでした。

[ グルメ・お土産:アップルマルシェ >]

15分

PM3:00日本の心を見る
椹平(くぬぎだいら)の棚田

国道287号から案内板に従って2㎞ほど南下し、八天橋という小さな橋で最上川を渡ると、県道9号から一本松公園へと通じる上り坂があります。実はここ、日本の棚田百選に認定されている椹平の棚田の全景を見るのに最適なスポットなのです。山並みを背景にして扇状に広がる208枚の棚田は、まさに日本の原風景そのもの。春は水田、夏は実入りを待つ青々とした若稲、そして実りの秋には黄金色の絨毯が眼下に揺らめきます。絶景シーズンの週末には、地元住民からのお茶のおもてなしもあるそうで、贅沢な時間を過ごせること間違いありません。
ちなみにこの場所、町の花であるヒメサユリ園としても有名で、5月下旬なら水鏡のように光る水田の棚田とヒメサユリの両方を楽しむことができます。

40分

PM4:40自然豊かな高原のホテルAsahi自然観へ

スノーパークとして冬期営業するスキー場併設のホテルです。無雪期は、広大な敷地をアウトドア広場としてご活用いただくために、無料または低料金で開放しています。コテージやキャンプ場での宿泊だけでなく、テニスやゴルフ、魚釣りができる施設を揃え、なんとダチョウとも触れ合えるとか。大自然に囲まれた展望抜群の立地は、地元の人たちからも人気を集めているので、週末のご利用は要予約です。

ホテル宿泊時にはボリュームたっぷりの本格的なコース料理が味わえます。朝日町公認のゆるキャラ「桃色ウサヒ」でデコレーションされたお部屋もあるとのことなので、ご希望の際には是非お気軽にお問い合わせください。大朝日岳登山口へのアクセスが便利で、渓流釣りの方も多く訪れています。

[ 宿泊案内:Asahi自然観 >]

2日目・大朝日岳登山に
向けてしっかり準備

Asahi自然観を出発し、徒歩で「空気神社」まで移動します。

10分

AM8:00空気は宇宙からの贈り物!

Asahi自然観から歩いて行ける所に、空気神社という気になるスポットがあったので行ってみることにしました。日本には八百万の神がいるといわれますが、どうやらここでは世界に類をみない「空気」を祀る神社のようです。「空気神社」と彫られた大きな石碑の横から綺麗に整備された参道を上ると、宇宙を創る5元素といわれる「木・火・土・金・水」を表現したというモニュメントが現れ、ブナ林に囲まれた小高い丘の上に異次元空間が浮かんでいます。
よく見ると、空の景色を映し出している大きなステンレス製のステージで、確かに不思議と、空気を感じるのです。

参拝の方法は他の神社とちょっと違い、二礼した後、「春夏秋冬」と唱えながら四拍手し、両手で天を仰いで大きな深呼吸、ゆっくり息を吐いてから、最後に一礼。
朝日町では、6月5日の世界環境デーを「朝日町空気の日」に制定し、直近の土日に空気まつりを開催しています。なんと! この期間は地下の本殿が御開帳されるようです。どんな場所かは、ご自分の目と耳で!

[ 寺社・パワースポット:空気神社 >]

30分

AM9:00大朝日岳登山に向けて食料調達

1日目にも寄った「道の駅あさひまち りんごの森」で、小屋泊用の食料を買い足すことにしました。大朝日岳山頂直下の避難小屋では、食事は自分で作ることになります。せっかくなら地元の食材がいいと思い、旬の果物と、秋の味覚のきのこ、さらに地元で飼育している珍しいダチョウの肉を購入しました。

[ グルメ・おみやげ:道の駅あさひまち りんごの森 >]

3分

AM9:40ワインは地元ワイナリーで

道の駅にあったワインボトルのラベルに「製造元 朝日町ワイン」とあったので、最上川を渡ったすぐ近くのワイナリーに行ってみることにしました。

朝日町ワインが生産するほとんどのワインの試飲ができるという朝日町ワイン城は、ぶどう畑に囲まれた洋風建造で、ちょっとだけリッチな気分を味わえます。
シャルドネ、メルロー、デラウェア、マスカットベリーA、ブラッククイーン、カベルネソービニヨンの6種のワインを生産し、日本ワインコンクールでの入賞も多い老舗ワイナリーの実力を直接味わえるチャンスです。好みの味を見つけて山小屋に持って行くことにしました。
日本ワインコンクールで金賞に輝いたワインはすぐに売り切れになってしまうそうですが、「毎年秋に開催する朝日町ワインまつりで味わえるかも」とのことで、ワインに興味がある人は参加してみてもいいかもしれません。でも、こちらのイベントも当日券が出ないほどの人気を集めるとのことで、要チェックです。

[ 体験スポット:朝日町ワイン城 >]

レポートボイス

朝日町ワイン 取締役総務部長 白田重明さん

白田さん写真

朝日町を流れる最上川はまさに恵みの川です。両岸の河岸段丘は粘土質の土壌で、ぶどうやりんごの栽培に最高の条件をもたらしています。和合平(わごうたいら)の無袋りんごが有名な理由もこの土壌にあります。 私も登山が大好きで、地元の朝日山岳会に所属していました。泊りの山行にはもちろんワインを持って登ります。果実の栄養がたっぷり詰まったワインは登山に最高で、特におすすめは赤ワインです。少し空気を入れながら水筒に詰め替えておけば、登る時の振動でスワリングに近い効果が生まれ、いい具合にワインが開きます。これを山小屋やテントで飲むのは最高の贅沢です。皆さんも登山には赤ワインを是非!

20分

AM11:00りんごの名産地の中の名産地へ

ワイン城の白田さんから無袋(むたい)りんご話を聞き、「ぶどうの次はりんごだ!」と、和合平へ向かいます。朝日町だけじゃなく、大江町の人からも「朝日町はりんごが有名ですが、和合平のりんごは特別」ということを聞いていましたので楽しみにして農園へ向かいます。

文字通り、袋をかけずに栽培する方法のことを「無袋りんご」と呼びますが、実はこの栽培方法を確立させたのが、ここ和合地区とのこと。 「糖度だけじゃなく、りんご本来の酸味を引き出し、味に深みを持たせる方法が無袋栽培です。色にムラは出やすくなりますが、旨いと感じる味に仕上がります」と、無袋栽培について教えてくれたのは、先代から長年和合平でりんご農家を営んでいる「幸作りんご園」の佐藤淳さん。
「糖度、酸味、歯ごたえ、ジューシーさなど、数ある果物の中でも多くの旨味要素を求められるのが、りんごの特徴ではないでしょうか。朝日町和合のりんごは、そのすべてを持つ最高のりんごです」と、ひとつ味見させてもらうと、佐藤さんの言葉どおりの特別な味がしました。この旨味、是非ご自身で確かめてみてください。必ず「うまい!」と声が出ますよ。

レポートボイス

幸作りんご園 佐藤 淳さん

白田さん写真

やはり土壌に尽きます。朝日町の硬い粘土質の土壌では、りんごの木は一生懸命に根を伸ばそうと頑張ります。その力が引き締まった味となって果実に凝縮されるんです。みずみずしさの中に、シャキッとした歯ごたえと適度な甘みを育み、無袋栽培でりんご本来の酸味を引き出します。
朝日町のりんご園では、もぎ取り体験も実施しています。おいしいりんごの見分け方は、お尻をよくみること。赤味がお尻にまで染まり始めたら、食べごろのサインです。

[ 幸作リンゴ園 WEBサイト > ]

20分

PM12:00ローカル感たっぷりのそば屋 蕎楽(きょうらく)

国道287号を南下し、県道113号を使って最上川の赤いトラス橋を渡ると、左側の小さな郵便局が見えます。目的のそば屋さんは、郵便局の裏手なのですが、近づいてようやく「そば屋?」と首をひねるほど控えめな店構えの、ごく普通の一軒家。御主人のそば好きが高じて自宅を改装した店内は、親戚の家に遊びに来たかのような居心地の良さがあります。季節メニューを含めても、選択肢は3、4種類で、余計なものを求めない本物志向のそば好きでも、きっと納得するこだわりの味です。

昔は二八そばも打っていたそうですが、今はすべて十割。春は山菜、夏はぶっかけ、秋はきのこ、という季節ごとのメニューに加え、雪解けの初春にしか味わえない幻の「月山湧水浸し寒晒しそば」は、是非とも食べてみたいものです。

[ グルメ・おみやげ:蕎楽 >]

2分

PM1:10朝日町宮宿でウサヒ探し

Asahi自然観のお土産コーナーにも置いてあった朝日町のゆるキャラ、桃色ウサヒ。「どうやら宮宿の商店が力を入れているらしい」との情報を入手し、ちょっと調査に立ち寄りまいた。

「少し探すかな」と思いきや、左から文具の近江屋、ワインようかんの玉屋菓子店、洋菓子の永勝堂菓子店が横並びで続いていました。大人気で売り切れ必至のウサヒカレンダーを、販売元だという近江屋でゲットし、隣の文政9年(1826年)から12代目だという玉谷でウサヒの和菓子とワインようかんを。さらに、見るからに美味しそうな手作りウサヒクッキーを永勝堂で購入して、大満足です♪

[ グルメ・おみやげ:近江屋 >]
[ グルメ・おみやげ:玉屋菓子店 >]
[ グルメ・おみやげ:永勝堂菓子店 >]

5分

PM1:50源泉かけ流し美肌の湯 りんご温泉

一日の疲れを癒す最高のご褒美は、なんと言っても温泉。小高い丘の上に建つりんご温泉は、泉質抜群の源泉かけ流し温泉が自慢。非常に塩辛く、苦みを伴ったナトリウム塩化物強塩温泉で、モール泉特有のアブラ臭としっとり感をまとった極上の泉質です。そして特筆するべきは、湯船にりんごを浮かべていること、ではなく、内湯と露天の両方から見える朝日連峰、月山、葉山の雄大な景色です。これからの登山に想いを馳せるも良し、登山の疲れを癒しながら思い出を振り返るも良し。贅沢な時間を約束するロケーションです。

[ 温泉案内:りんご温泉 >]

15分

PM3:20日本初の蜜ロウ製造 ハチ蜜の森キャンドル

大朝日登山の出発点に決めた古寺鉱泉へ向かう県道289号の途中、ぽつんと佇む小さな木造ハウスを見つけてちょっと見学することにしました。

「ハチ蜜の森キャンドル」と彫られた木の看板と、「営業は土日です」の札を確かめながらドアを開けると、甘い香りが漂う室内に、オレンジ色のロウソクが展示されています。ここは蜜蜂の蜜ロウだけを使った、日本初の蜜ロウソク製造アトリエ。養蜂園を営む家に生まれたオーナーの安藤竜二さんは、幼少期から蜜蜂と共に暮らし、蜜蜂たちが一生懸命集める蜂蜜と蜜ロウに命の尊さを感じていたそうです。

アトリエでは、キャンドルやハンドクリーム作りなどの体験教室やワークショップ、森歩きの観察ガイドを行っています。蜜ロウに触れながら自然との付き合い方を学ぶことができる、またとないチャンスです。
安藤さんが作る蜜ロウソクは、希少価値の高い天然製品として、教会でのイベントや贈り物として重宝されています。すべて手作りのため、広く出回ることはなく、ご要望の際にはお問い合わせいただくのが確実です。

[ 体験スポット:ハチ蜜の森キャンドル >]

レポートボイス

ハチ蜜の森キャンドル 安藤竜二さん

安藤さん写真

普通のロウソクと蜜ロウソクは何が違うのか? とよく質問されますが、答えとして一番簡単なのは、化学成分か、天然成分かの違いです。一般的に普及しているロウソクは、石油精製時に取り出されるパラフィンが原料。石ロウとも言い、通常は有害とされています。一方蜜ロウソクは天然成分ですので、食べることもでき、蜜ロウをつかった洋菓子「カヌレ」は有名です。
蜜ロウソク作りはすべてが手作業です。1ヶ月しか生きられない蜜蜂たちが集めてくれた貴重な蜜ロウを丁寧にロウソクにしていきます。生産性は低いですが、自然の尊さを小さな光から感じてもらえるはずです。

安藤さんからのもっと詳しいお話はこちらから
[やまボイス:ハチ蜜の森キャンドル 安藤竜二さん >]

75分

PM5:30いよいよ大朝日岳へ

太陽が大きく西に傾く頃、大江町唯一の朝日連峰登山口となる古寺口を目指し大江町へ。県道289号から大沢沿いの峠道に入り、山毛欅峠(ぶなとうげ)を越えると古寺地区に下ります。目印はサクラマス孵化場施設。月布川が古寺川へと名前を変え、舗装された林道を沢沿いにさらに3㎞ほど進むと、無料の駐車場に到着します。
日の出と共に登り始めるために車中泊される登山者も多く、シーズン中は賑わっています。 登山に必要な装備をザックに詰め込み、未舗装の山道を約200m進むと、古寺鉱泉 朝陽館が見えてきます。渓流釣りの客も多く訪れる古寺鉱泉は、冷鉱泉をそのまま溜めている非加熱浴槽と40℃の加熱浴槽を備え、大江町最奥の立ち寄り湯としても有名です。

[ 宿泊案内:古寺鉱泉 朝陽館 > ]

3日目・雨天の中、大朝日岳
避難小屋を目指して

AM8:00雨雲の切れ間を狙うが…

屋根を叩く雨音で目が覚め、窓を開けて空を確かめるまでもなく、出発準備に取りかかります。台風の影響で不安定だった天気がようやく好天へと向かうとのことで、しっかりご飯のおかわりをして、いよいよ出発です。

古寺口から大朝日岳避難小屋までのコースタイムは約6時間。距離約9㎞。標高差約1100m。途中の水場は3ヶ所。前半はブナの樹林帯を歩き、行程のちょうど半分にあたる古寺山からは、稜線に飛び出す形で展望が開きます。

歩き出しから標高100mの急登。その後も緩やかな登りが続き、時折アクセント的に急登が混じります。最初の水場となる一服清水までは「やっとひとつめの水場だ」と長く感じます。次の三沢清水までのすぐに到達できるので、荷物の重さと相談しながら水筒への補給量を考えましょう。3番目の銀玉水までは長丁場です。三沢清水では水筒を満タンにしたほうが無難です。

長い樹林帯を抜けたと同時に、古寺山山頂に着きます。天気さえ良ければ、小朝日岳と大朝日岳をつなぐ見事な稜線と、さらに奥へと続くパノラマビューの朝日連峰を一望できるポイントとなります。

古寺山まで頑張った登りの何割かを下り、また同じ分だけ登ると、小朝日岳山頂へ至る急登道と平らな巻き道の選択を迫られます。天気が良ければ迷うことなく急登を選ぶべきですが、この日はあいにくの雨。展望も期待できないので素直に巻き道を進みます。

ぐるりと山肌を回り再び尾根に合流すると、東北の日本海側の山によくみられる非対称山稜の周氷河地形が足元に広がります。紅葉時期、ここからの稜線歩きは大朝日岳登山のハイライトと言っても過言ではなく、特に積雪と日照によって激しく浸食している小朝日岳の南壁は、ナナカマドの真紅とカラマツの金色が入り混じり、自然が創り出す無限の美の一端を垣間見ることができます。

展望の良い稜線歩きは北斜面が先に紅葉し、パノラマ状に広がる朝日連峰を見ながらの幸せな時間が訪れます。
「朝日連峰で一番うまい水」と言われる銀玉水は、行程の効率から考えて、小屋で使用する水としてたっぷり汲んでいったほうがいいでしょう。
重さが増したザックを再び背負い、霊峰朝日岳神社奥宮の碑が立つ稜線まで登れば、大朝日岳避難小屋はもう目と鼻の先です。

暴風雨の音をBGMに、小屋管理人の阿部吉太郎さんと山談義に花を咲かせ、気が付けばその日小屋に泊る予定の登山者全員が酒を持ち寄っていました。
「金玉水と銀玉水の味の違いがわかるかな~? これ(pH試験紙)で浸せばはっきりと違いがわかるから、さぁみんなで利き水だ」と、阿部さんがボトルをふたつ持ってきました。金玉水と銀玉水です。さっそく飲み比べしてみたところ、かすかに違いはありますが、それを味と言ってしまっていいのかはわかりませんでした。
全員で両方の水をひと通り味わい、いいいよpH試験紙で調査開始!時間が経つにつれて明らかな変化が表れるそれぞれの試験紙。実際の結果は是非とも皆さんの舌で確かめてみてほしいです。

管理人 阿部吉太郎さんからのもっと詳しいお話はこちらから
[ やまボイス:大朝日岳山頂避難小屋管理人 阿部吉太郎さん > ]

4日目・モルゲンロートの
祝福を受けて下山

AM7:00最高の登山日和の中で紅葉満喫

「打って変わって」とはまさに言葉通りで、小屋を揺らしていた昨晩の暴風雨は、その片鱗さえ残さずどこかへ過ぎ去り、見事なモルゲンロートを受けた大朝日岳が真っ赤に燃えていました。

360度の眺望。双子のような月山と鳥海山の重なり合うシルエット。大朝日岳からは、飯豊連峰の全景、そして日本海。さらにその奥に、海を挟んだ佐渡島まで見渡せます。低山の部類でひとまとめにされがちな2000mに満たない東北の山々ですが、緯度の高さによる森林限界の低さと日本海から吹き付ける冷たく強い風と雪の影響で、日本アルプスにも決して劣ることない、壮大な山岳風景が眼下に広がります。
登山の楽しみ方のひとつに、「都会の喧騒を感じさせない雄大な自然の中に身を置くこと」があるとすれば、「その欲望を満たすための要素すべてが大朝日岳にあるのではないか」とさえ思える感動的な景色でした。

「晴れたら絶対ミカゲモリ」という阿部さんの言葉に従い、御影森山コースへ。大朝日岳に登って、南西の急なガレ道を駆け下り、袖朝日岳の稜線を眺めながら平岩山のジャンクションを南東の尾根へと進みます。
遠くに御影森山は見えるのですが、手前の3つのニセピークがなかなかのくせ者で、息が乱れてしまいました。とは言え、稜線から見られる大朝日岳は本当に見事。「さっきまであの山頂にいたんだ」と思えば感激もひとしおです。
御影森山を越えると、ようやく下山道らしい下り基調になります。美しいブナ林を抜け、上倉山に登る緩やかな坂道の手前に、森の巨人たち100選に指定されている上倉の大クロベが静かに佇んでいます。幹周囲は9.27m。日本一とのこと。

上倉山を下ると、ようやく道沿いに最後の水場が出ます。先の植生は松が主体となり、三点支持を強いられる激急坂で一気に標高を下げます。ところによっては、松の根っこ以外手がかりがない場所が続き、緊張で汗を流していると、沢の音が聞こえはじめ、ようやく「朝日鉱泉」への下山口に到着します。

PM12:30ナチュラリストの家の前でタクシー

大朝日岳避難小屋と御影森山の山頂付近で携帯電話の電波があったので、古寺鉱泉の駐車場に停めてあるレンタカーをピックアップするために、事前に朝日鉱泉ナチュラリストの家までタクシーの送迎をお願いしておきました。朝日町の登山利用タクシーは、左沢や寒河江駅などの主要ポイントまでなら、1万2,000円~1万5,000円ほどの固定額で利用が可能。9人乗りのジャンボタクシーも呼べるとのことで、団体利用ならよりリーズナブルに利用です。

思いのほか下山に時間を要し、予定していた時刻より30分ほど遅れてしまいましたが、適度な疲労感と充実感に満たされた僕たちを朝日タクシーの運転手さんは「おかえりなさい」と笑顔で出迎えてくれました。

朝日鉱泉ナチュラリストの家は、親子二代で営むアットホームなペンションです。テラスで休んでいたところ、ちょうど買い物から戻られた二代目の西澤新地さんにお会いすることができました。

「朝日町側から大朝日岳への登山なら、雪解けが早く、距離も短い中ツルコース、ヒメサユリが咲き誇り、水場も多い鳥原山コース、距離は長いけど、素晴らしい景色が続く御影森山コースの、3つのコースから選ぶことができます。また、朝日鉱泉から登れば登りと下りのコースをこの3つの中から選べるのも魅力ですね。」
西澤さん親子は季節を問わずに山に入り、天然の山菜やきのこなどの旬の山の幸を、自家製の野菜と共に食事の一品に加えてくれるそうです。今回は叶いませんでしたが、メインディッシュに出されるというイワナのマリネは是非食べてみたい料理でした。
「そりゃ旨いですよ。から揚げにしたイワナを南蛮漬け風のソースで味付けするんです。大人気の一品ですね」

大朝日岳を知り尽くしている西澤さんならではの情報も教えてくれました。
「山のヒメサユリは、7月頭が見頃を迎えます。知られているのは鳥原山コースですが、実は御影森山コースのヒメサユリもすごいんです」
登山者が多い日は立ち寄り湯の営業もやっているとのことなので、気軽に立ち寄ってみてください。とても気持ちが和む場所です。

大朝日岳の魅力が満載のフォトギャラリー 満天の星空やキノコの写真たちも!

やま旅フォトスナップ

古寺鉱泉~大朝日岳~御影森コースマップ

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150分

PM3:00レンタカーを回収し、温泉とお土産

古寺鉱泉に停めたレンタカーを無事に回収し、大江町の県道27号で山形駅へと車を走らせます。途中、地元物産品も購入できる柳川温泉があり、町の中心部に近いテルメ柏陵隣接の大江町健康温泉館とどちらの温泉に入るか迷うところです。泉質は両方ともに極上の源泉かけ流しで、どちらも自信を持っておすすめしますが、両方入浴という贅沢技が一番おすすめです。立ち寄り湯の料金は、どちらも格安の300円なのですから。

大江町の県道27号は、見所満載の観光ルートでした。
十八才という世にも珍しい名前の村があったり、円寿地蔵尊という村人が崇める大きな地蔵を見たり、山神神社には鬼の顔をしたご神木も見ることができました。
もちろん地元特産品が購入できる物産店も多く、特におすすめしたい施設は、小倉交流館と道の駅おおえです。あまりの安さと新鮮さに、ザックがひと回り大きくなってしまったのは言うまでもありません。

[ 温泉案内:奥おおえ柳川温泉 >]
[ 温泉案内:テルメ柏陵健康温泉館 >]
[ グルメ・お土産:小倉交流館 >]
[ グルメ・お土産:道の駅おおえ >]

レポートボイス

大江町産業振興公社 高取和彦さん

高取さん写真

大江町には通称 温泉バスと呼んでいる町営バスが運行しています。走行区間は、テルメ柏陵から左沢駅を経由し、柳川温泉まで。料金はなんとたったの100円です。
大朝日岳への登山をより贅沢にする裏技として、左沢駅から100円の町営バスで柳川温泉までおいでいただき、のんびり宿泊した翌日、早朝にタクシーを使って登山口まで送迎してもらう方法があります。田舎情緒を感じながら極上の温泉宿にリーズナブルに泊まる贅沢技です。大江町で温泉付き宿と言えば柳川温泉です。是非お試しください。

[やまボイス:大江町産業振興公社 高取和彦さん >]

2,000mに満たない低山でありながら、アルプスの美峰を凌駕する深山幽谷の大朝日岳へのやま旅はいかがでしたでしょうか? 極上の温泉と魅力たっぷりの物産品、そして見所、体験どころ満載の3泊4日。長いようで短かかった、充実のやま旅でした。今回は紅葉の大朝日岳を登りましたが、里のヒメサユリが開花を迎える5月上旬、そして山に自生するヒメサユリが見頃になる7月上旬は、もう一度は訪れてみたい季節です。季節ごとに移り変わる人々の営みと旬のグルメを堪能しながら、大江町と朝日町の魅力を体感してみてください。葉山、月山、大朝日岳の登山拠点になる、西村山の魅力はまだまだ続きます。

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山たびメモ ― 大朝日岳

大朝日岳登山だけを目的にするなら、山形自動車道を利用して月山IC出口から県道27号で南下するルートが一番早いです。しかし、行動食などを買い足せるコンビニエンスストアなどの商店が少なく、必要に応じて西川IC出口を利用することをおすすめします。
大朝日岳への入り口となる大江町と朝日町は、両方とも左右に長い面積を持ち、西側の大朝日岳方面は山間部、東側は住宅地と商業施設というのが特徴で、それぞれの町役場も意外と近い場所にあります。旬の物産品を取り揃えるそれぞれの道の駅も、車でなら10分もかからない距離。食料の買い足しが必要な時は、大江町と朝日町の両方の特産品から物色してみるのも楽しいです。
余談ですが、大江町役場の斜め向かいにある「肉のキクチ」は、山形牛の取り扱う隠れた名店で、揚げたてのコロッケも忘れられない味でした。見かけた是非立ち寄ってみて下さい。ちなみに大江町職員には、昼のお弁当が大人気とのことでした。

スポット情報

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おみやげ情報

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