西村山エリアに入ってすぐに目に飛び込んでくる、山腹に雪渓を抱えたひときわ大きな山塊、月山です。春から夏にかけて数多くの高山の花が咲き誇り、秋は美しい紅葉が山肌を彩ります。古くから信仰の山として多くの参詣者が訪れ、近年ではリフトを利用して手軽に登ることができる日本百名山としても人気を集めています。今回は、月山登山を中心とした、観光とグルメ、そして美しい原生林の魅力を思う存分に味わう、2泊3日の旅をご紹介します。
登山と観光を両方楽しむなら、自由に動けるレンタカーが便利です。山形自動車道の終点が月山ICなので、月山登山には超~べんり。でも初日は西村山エリアに到着したばかりなので、少しのんびりと、美食と美酒を探す旅に出かけましょう。
さっそく美食を求めて、西川町の「玉貴」へ。寒河江川の清流の風を感じる自然に囲まれた立地の料亭で、西村山までの長旅にひと息入れるには、ぴったりの場所です。春は山菜、夏は若鮎、秋は松茸、冬はフグと、四季折々の旬を最高のおもてなしで堪能できます。また、玉貴の館内には、四季の彩る華やかな風物詩が飾られます。ゆったりと流れる時間の中で、贅沢な食事後のひと時を過ごすことができます。
15分
さて次は、西村山の美しい山間風景を楽しみながら、寒河江川の源流部、大井沢までドライブに出かけてみましょう。国道112号を西に進むと大きな湖が左の谷に現れます。月山水系と大朝日岳水系の水を集める人造湖の「月山湖」です。高さ112メートルもの山形県最大のロックフィルダム「寒河江ダム」も迫力ありますが、「月山湖」で打ち上がる、高さ112メートルの大噴水も見事なものです。AM10時からPM4時まで(土日祝日はPM5時まで)、毎日1時間毎に打ち上がりますので、是非お見逃しなく。
さて、なぜか「112」という数字がよく並びますが、実は、寒河江ダムの竣工式の日時も「11月2日11時20分」、国道も112号。「112」は西川町のキーワードになっているのです。
20分
「月山湖」をぐるっと回って進路を南の県道27号に向けると、正面には大朝日岳山系が並び、後ろを振り返ると、寒河江川の流れにそびえたつ月山の美しい姿を見ることができます。大井沢地区に入って間もなく、「西川町 自然と匠の伝承館 大井沢自然博物館」という茶色い看板が右手に現れます。
古民家を改築した施設内には、西村山を中心とした山形の文化を伝える展示物や、地元の学生さんが中心になって作製したクマや鳥などの剥製や昆虫標本が見られる博物館が併設されています。博物館の庭には、とても貴重なミズナラの変種が植えてあり、実生から発生する確率は1/1000と言われる特別なミズナラだそうです。是非見つけてみてください。
山の近くに住む人々は、マタギの生活が長く続いていましたので、今もその文化はしっかりと残っています。地元の家庭では、マタギが使う古い猟具や林業の道具などが保管され、動植物にも精通しているのです。地元の文化を伝えるうえで、そういった伝統的な道具はとても貴重な資料となります。山に暮らす人々の営みを、道具から感じることができるよう、博物館で大切に展示させていただいています。是非ご覧いただきたいと思います。
35分
西日に照らされた「月山湖」を見ながら、国道112号で「西川IC」方面に戻ります。今日のお宿「出羽屋」に入る前に、山形産のブドウを使用してワインを仕込む「月山トラヤワイナリー」と、地元に愛される「設楽酒造店」にちょっと寄り道してみましょう。
さくらんぼのワイン造りから始まったという「月山トラヤワイナリー」は、古い造り酒屋をそのまま利用したノスタルジックな雰囲気の古民家で、夕涼みにぴったりの居間を使ってワインの試飲ができます。オススメの白ワインは、馴染み深いデラウェアを使っているため、さわやかな甘味があって飲みやすい仕上がりです。
設楽酒造店は、4代目の若社長が切り盛りしている、明治29年創業の老舗酒造です。月山の湧水を使った透明感あるすっきりとした喉越しが特徴で、上品な甘味を感じる極上の酒を造っています。県外ではなかなか見ることができない「一声」という酒がオススメですが、ほとんど地元で消費されてしまうらしいです。見つけたら是非!
水のきれいな月山の麓は、酒造りに最適な場所だと思います。日本有数の豪雪地帯に美しいブナの原生林が広がる月山。長い年月をかけて湧き出す月山のおいしい水は、酒造りにとって宝石に勝るかけがえのない財産です。その水で仕込んだ西村山のお酒を是非味わってみてください。
設楽さんからのもっと詳しいお話はこちらから
[やまボイス:設楽酒造店 設楽厚彦さん >]
10分
「山菜料理の発祥の宿」と言われる「出羽屋」。「山のもの」と蔑まれていた山菜を、嗜好食として珍重されるまでに世に広めたのが、出羽屋の先代「佐藤邦治氏」だと言われています。その料理は、伝統的な保存法と料理法を守り、飾りすぎることなく、素朴な味わいで素材の味を最大限に引き出しています。数十種類にものぼる小鉢のひとつひとつが、まるで宝石のように思え、食べ終わってしまうのがもったいないくらい。
「雪深い月山の山菜を食べると身体が元気になるような気がします。山の恵みを大切に料理し、食すことで、山の力を少しだけ分け与えていただいているような、そんな気持ちになれます」と、山菜料理について説明してくださる女将の話を聞くと、月山の存在が人々の暮らしに根付いていることがよくわかります。山と共に育まれた人々の文化を感じながら、明日の月山登山に向けて、山菜パワーを貯え、ゆっくり身体を休めることにしましょう。
月山をはじめとする出羽三山は、修験の山として参詣者が後を絶ちませんでした。やがて三山への街道には参詣者をお泊めする宿場が並ぶようになりますが、半年は深い雪に閉ざされる山国ゆえ、御膳に山菜が用いられることは仕方のないことでした。それでもお泊りになられるお客様に喜んでいただこうと調理法に工夫をこらすようになったことが、山菜料理のはじまりとされています。他国の料理法も取り入れられ、次第に「おもてなし」の料理へと磨かれてゆきます。「よろこんでいただくための努力」こそが、山菜料理の原点になっているのです。
佐藤さんからのもっと詳しいお話はこちらから
[やまボイス:山菜料理 出羽屋 佐藤明美さん >]
宿を出発し、途中、「六十里越街道」へ立ち寄りつつ登山口まで車で移動します。
30分
早めの朝食のあと、早速月山登山口へと向かいます。今は国道112号を車で行きますが、かつては、「六十里越街道」という1000年以上前から続く街道が使われていました。鶴岡に続くこの出羽の古道は、出羽三山へ通じる信仰の道として多くの参詣者が行き交いました。今でもあちらこちらの山中に道しるべの石碑や灯篭が残っていますので、歴史を感じる寄り道を楽しむこともできます。
10分
月山山頂の標高は1984m。リフト上駅からの標高差は約400mです。リフトからすぐに「姥ヶ岳」へ向かう分岐がありますが、今回は月山山頂へとまっすぐ向かう、「牛首」経由のコースにしましょう。広々とした山の景色とお花畑を楽しみながら、約1時間で「牛首」に到着。
その後、標高を一気に上げる急勾配の登山道になり、もう約1時間で「頂上小屋」に到着します。小屋の営業時期は、7月1日~9月20日頃までで、短い雪解けシーズンのみの営業です。月山は、万年雪を抱える山肌があるほどの豪雪の山です。年によっては、登山道を埋めつくすほどの雪渓が行く手を阻むこともありますので、リフトでの情報をしっかりと確かめ、アイゼンのレンタルを忘れないようにしましょう。
月山頂上には、月読命(つきよみのみこと)を祀る月山神社の小さな社が鎮座しています。古くから人々の信仰を集め、今でも多くの参詣者が訪れます。山頂神社へは参拝料として500円を納め、宮司の案内に従い、神社内を巡ります。
月山の一等三角点は、神社の裏手1979.8mの場所にあります。神社を出たら大峰、仏生岳方面の登山道を進み、左手の稜線に登る踏み跡を辿ります。10人も入ればいっぱいになる狭い場所ですが、北西方向の展望が良く、東北の山塊らしい緩やかな稜線が、深い原生林と共にどこまでも続いている景色を楽しむことができます。コンディションに恵まれれば、鳥海山まで見えることもあるそうです。
少し長めに景色と休憩を楽しみ、下山に備えます。登りの時とは違い、景色を楽しむことにも余裕が出てきているはずです。登山道のいたる所に、「ミヤマリンドウ」や「クロユリ」、「ミヤマウスユキソウ」などの珍しい高山の花を見ることができるでしょう。高山植物の群生地として有名な月山を楽しみながら、ゆっくりと安全に下ります。
「牛首」の分岐点からは、来た道を下らずに「姥ヶ岳」を縦走し、「ニッコウキスゲ」が咲き乱れる清々しいスカイラインの稜線道を楽しんではいかがでしょうか。南側に見える山肌が美しく、湯殿山神社へと向かったであろう、昔の参詣者達の足跡を感じることもできます。
10分
月山志津温泉街の「五色沼」の畔に、「五色亭旅館」という温泉宿があります。登山者も多く立ち寄る宿で、浴室からの景色が抜群です。鏡のように静かな沼の水面に、さっきまで山頂に立っていた月山の姿が映り、ほっこりとした贅沢な時間を過ごすことができます。料理は、地元の旬の食材を使ったおもてなしです。湖畔沿いを散歩するコースがあり、夕食までの時間を過ごすには最高のロケーションです。
月山志津温泉には、10軒の宿泊施設があります。お問い合わせ先は月山朝日観光協会 0237-74-4119
[ 月山志津温泉 >]
宿を出発し、車で「県立自然博物園 ネイチャーセンター」まで移動します。
10分
のんびりと朝食を楽しんだあとは、「県立自然博物園 ネイチャーセンター」を訪れてみましょう。広大な敷地の中には、ブナの原生林や月山の湧水、信仰登山の痕跡など見どころがたくさんあります。毎日、インタープリターの解説付きの博物園ブナの森ガイドツアーが行われており、しかも参加は無料です。(※9:30と13:30の毎日2回開催。約2時間30分の半日体験コース。休館日除く)月山の豊かな水が育むブナの巨木の森の息吹は、身体全身で感じる思い出になること間違いないでしょう。
[ 体験スポット:県立自然博物園 ネイチャーセンター >]
ネイチャーセンターのスタッフ真鍋さんからお聞きしたもっと詳しいお話をこちらからかご覧いただけます
[やまボイス:県立自然博物園ネイチャーセンター 真鍋雅彦さん >]
10分
標高634mの高原に広大な敷地で広がる「弓張平公園」の中央あたりに、ロッジ宿泊ができる「月山ポレポレファーム」があり、そのすぐ裏手にオリジナルハンバーガーがオススメの「ゆみはり茶屋」があります。是非味わってほしいメニューは、「月山とんバーガー」です。手作りならではの心休まる味が忘れられず、リピート続出の人気店です。
15分
月山湖で上がる噴水を見ながら町の方に下りてくると、「道の駅にしかわ 月山銘水館」が左手に見えます。地ビール「月山」の製造所を併設する「地ビールレストラン」があり、地ビールに3日漬け込んで5時間煮込む、「山形牛やわらか地ビール煮セット」が絶品。深い甘みのあるデミグラスソースと一緒に、とろける山形牛の旨さが口いっぱいに広がります。また、敷地内には「水沢温泉館」も併設しており、温泉の後にビールというのもオススメです。
10分
時間があれば是非立ち寄っていただきたい神社のひとつに、「岩根沢三山神社」があります。本堂が国の重要文化財に指定され、その重厚感にまず圧倒されるでしょう。歴史を伝えるうえで大切な絵馬などを見ることができ、信仰篤かった当時を垣間見ることができます。
宮司さんの話によれば、夏の参詣シーズンには、「六十里越街道」を埋め尽くす笠の列が途切れることを知らなかったそうです。国道112号沿いには、「本道寺口之宮湯殿山神社」もあり、時間が許すなら、立ち寄ってみたい歴史スポットです。
月山や湯殿山への参拝ルートになっていた「岩根沢三山神社」や「本道寺口之宮湯殿山神社」では、参詣者が溢れ、多くの賑わいを見せていました。もちろん町にも宿坊は沢山ありましたが、大井沢で見られたとされる情景で「湯殿まで笠の波打つ大井沢」と詠まれたくらい、笠の列が途切れることがなかったそうで、一度に約400人が泊まれる「岩根沢三山神社」でも、泊まり切れない人達で溢れていたそうです。当時はそれだけ信仰の人気を集めた場所だったということが、神社内に残っている資料からもうかがい知ることができます。「西の熊野、東の湯殿」とも言われ、「人生一度は詣でたい場所」として、当時は全国にその名が知られていました。
20分
山形県民はそばが大好きです。石臼挽きの伝承匠の技、こだわりの厳選素材で作る月山そばの製麺所として、地元に愛される「玉谷製麺所」に訪れてみましょう。店内は多くの客で賑わい、その人気がわかります。
山形のブランド米「つや姫」の発芽米を使用し、雪の結晶に見立てた「雪結晶パスタ」をご存知の方は多いかもしれません。2014年のグッドデザイン賞受賞で、全国的に知名度を高めた商品です。もちろん、ご当地グルメ「冷たい肉そば」のセットもありますので、お買い忘れなく!
霊峰月山への登山を中心とした、2泊3日の山旅はいかがでしたでしょうか? 余すところなく西村山の魅力を楽しんでいただける贅沢なプランになっているはずです。紅葉が美しい秋の季節もオススメですが、雪解けから目覚めた原生林の緑と高山の花々がいっせいに輝く、初夏の季節は、特にオススメです。山菜とそばに舌鼓を打ちながら、月山の美しい景色を楽しみ、そして人々の文化を体験してみてください。葉山、月山、大朝日岳の登山拠点になる、西村山の魅力はまだまだ続きます。
月山登山の旅の主要道路は、国道112号です。その昔、「六十里越街道」という山形県の庄内地方と内陸を結ぶ古道がありました。1200年前に開かれたと伝えられ、参詣者だけじゃなく、戦国時代には軍馬が通る軍道として使われていたそうです。戦が終わるころには、参勤交代の道で利用され、また商売品を運び行き来する商人の道としても栄えていました。この「六十里越街道」は、今も西村山の山中に残っていますが、主要道は現在の国道112号として生まれ変わっています。「六十里越街道」の六十里は、現在の尺貫法では計算が合いません。所説あるようですが、今でも謎であるというところがまた、「六十里越街道」の魅力を増しているようにも思えます。
コース 内で紹介しきれなかったスポットをまとめてご紹介!!
昭和5年創業の老舗ラーメン屋。冷やしたラーメンに納豆がたっぷり乗っている「冷やし納豆ラーメン」が人気です。
出羽屋の先代が考案したという「月山山菜そば」が人気。鉄鍋で煮込んだ具だくさんの山菜汁に、冷たいそばをつけて食べます。
スキーシーズンだけの営業が多い姥沢の宿泊施設の中で、夏シーズンも営業する登山者のための宿です。
姥沢駐車場のすぐ近く。夏シーズン営業している登山の宿は、ここと「月山リゾートイン」の2軒のみです。
六十里越街道と交わる国道112号沿。本道寺社務所バス停が目印。高台に建ち、眼下にはかつて宿坊の町だった景色が広がる。
山形から鶴岡を結ぶ、かつての山岳道。開道は1200年前とも言われ、当時は主要道として使われていました
明治元年の神仏分離令で大日寺から湯殿山神社に改称されましたが、明治36年に起きた火災で一切が焼失してしまいました。
やま旅の思い出と一緒におみやげも忘れずに!山形・西村山地域の特産品を中心にご紹介します。
栄養価値が高いサルナシのジュース
月山こくわジュース[A]
玉谷製麺所の長時間熟成製法麺
生麺(麦切・そば・ラーメン)[A]
月山の恵みシリーズの人気お土産
ちょい辛麹[A]
くんせい工房ぽれぽれのソーセージシリーズ[A]
山形の郷土料理を楽しめる肉そば
冷たい肉そば・月山そば 山[B]
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